メガネ拭きは洗うより、枚数を増やして回す
ケースに入れっぱなしの眼鏡拭きが、いつのまにか灰色っぽく黒ずんでいる。捨てるのはもったいないけれど、このまま使っていいのかも分からない。洗濯機に放り込んでいいのか、それともそういうものではないのか——この記事では、眼鏡拭きは洗えるのかという疑問に答えたうえで、それより効き目のある「複数枚を場所ごとに置いて回す」という扱い方と、替えどきの見分け方をまとめます。
黒ずんだクロスは、汚れを落とすより引きずっている
まず、なぜ汚れたクロスがよくないのかから。
眼鏡拭きの多くは、細い繊維の束で汚れをかき取り、繊維の隙間に抱え込むという仕組みで働いています。皮脂や水滴だけならそれで済むのですが、実際のレンズには、空気中の細かいちりや砂ぼこりも一緒に乗っています。屋外を歩いた日はもちろん、部屋の中でも数時間かければそれなりに付きます。
クロスが新しいうちは、その粒もろとも繊維が抱え込んでくれます。ところが繊維の隙間が皮脂で埋まってくると、抱え込む先がなくなる。すると粒はクロスの表面に居座ったまま、レンズの上を一緒に移動します。これが、レンズ中央に細くて向きのそろった線が増えていく理由です。
つまり黒ずんだクロスは「汚れが落ちにくい」のではなく、「前回の汚れを次のレンズに引きずっている」状態に近い。拭くほど曇って見えるようになったら、腕の問題ではなくクロスの限界だと考えたほうが早いです。
洗っていいのか——洗えます。ただし全部は戻らない
結論から言えば、洗って構いません。むしろ洗わずに使い続けるほうが問題です。
やり方はごく簡単で、ぬるま湯に中性洗剤をほんの少し溶かし、押し洗いします。もみ洗いや強くねじる必要はありません。そのあと洗剤が残らないよう、すすぎを多めに。絞ったら形を整えて陰干しします。
避けたほうがいいのは次の三つです。
- 柔軟剤:繊維の表面に膜が残り、汚れを抱え込む力が落ちます。仕上がりは柔らかくなりますが、拭き取りには逆効果です
- 漂白剤・熱いお湯:黒ずみを抜こうとして使いがちですが、繊維が傷みます
- 乾燥機・アイロン・他の洗濯物とのまとめ洗い:熱で繊維がつぶれたり、他の衣類の毛羽や柔軟剤が移ったりします
そのうえで、正直に書いておきます。洗えば見た目はかなり戻りますが、繊維の起毛や、細かい汚れを抱え込む余力は、洗うたび少しずつ減っていきます。何度も洗った布が新品と同じ手触りに戻らないのと同じです。眼鏡拭きは洗える道具ですが、洗えば無限に使える道具ではない。消耗品だと割り切ったほうが、扱いが楽になります。
ここが本題。1枚を洗い続けるより、3枚を置いて回す
1枚を丁寧に洗って長く使うより、はるかに効くのが枚数を増やすことです。理由は単純で、1枚しかないと「汚れてきたけれど、今これしかない」という場面が必ず来るからです。その1回が、いちばん傷をつくります。
おすすめは、使う場所ごとに置いて、使ったら下げるという回し方です。
- 3枚から始める。同時に3枚使うわけではなく、1枚を使っているあいだ、1枚は洗濯待ち、1枚は控えという配分です
- 置き場所を決める。自分が一日のうちでレンズを気にするのはどこか、を思い出します。多いのは机の上、洗面所、鞄やケースの中の三か所。ここにそれぞれ定位置を作ります
- 使ったら畳んで戻さない。汚れたと感じたら、その場で洗濯待ちの箱(小さな空き缶でも紙袋でもかまいません)へ。ここが要で、畳んで元に戻すと、汚れたまま次も使うことになります
- 週に一度、まとめて洗う。3枚あれば、洗って乾くまでの時間に困りません
色や柄を変えておくと、洗い上がりと使用中の見分けがつきます。特に、ケースに入れっぱなしの1枚は黒ずみやすい場所です。ケースの中は乾きにくく、レンズから落ちた細かい粉や皮脂がたまっていきます。「予備だから汚れない」ではなく、予備こそ定期的に入れ替えると考えてください。
ちなみに、汚れがひどい日は乾いたクロスで拭く前に水で流してしまうほうが、結局レンズには優しいです。クロスは「仕上げの道具」で、「汚れを落とす道具」ではない、という位置づけにしておくと枚数も長持ちします。
替えどきは、色ではなく手触りと滑りで見る
「何か月で交換」という決まった数字はありません。毎日何度も拭く人と、週に数回の人とでは減り方がまったく違うからです。日数ではなく、状態で見ます。
- ごわつく:洗っても柔らかさが戻らず、紙のような手触りになっている
- 滑らない:レンズの上を滑らず、引っかかる感じが出る。繊維がつぶれているサインです
- 筋が残る:拭いたあとに拭き跡の線が残り、もう一度拭き直すことが増えた
- 黒ずみが抜けない:洗っても全体が灰色のまま
- ほつれ・縁の毛羽立ち:糸が出ている箇所は、レンズの縁やコートに当たります
このうち二つ以上が当てはまったら、洗うより替えるほうが早い段階です。逆に言えば、ここまで来る前に交換できていれば、拭き傷はかなり減らせます。
あわせて、ティッシュ、服の裾、ハンカチで拭く癖は見直す価値があります。どれも繊維が硬かったり、糊や柔軟剤が付いていたりして、眼鏡拭きよりレンズへの負担が大きい。クロスが手元にないときは、無理に拭かず、水で流してから水気を切るほうが無難です。
うまくいかないこと、クロスでは直らないこと
正直に書いておきます。クロスを新しくしても、すでにレンズに入ってしまった細い線は消えません。傷は削れた跡なので、埋め戻すことはできない。新しいクロスにする効果は「これ以上増やさない」ことです。
また、拭いてもすぐ白っぽく曇る、虹色のムラが出る、といった場合は、汚れではなくレンズ表面のコートが劣化していることがあります。この段階は手入れで戻る範囲を超えているので、レンズの状態を見てもらうのが早いです。
そして、これはきちんと線を引いておきたいのですが、見えにくい、かすむ、目が疲れる、痛みがあるといった目そのものの症状は、眼科医の領域です。クロスやレンズの手入れで判断できることではありません。まず眼科を受診してください。メガネ店でできるのは、見え方の相談と、フレームやレンズの状態を見て調整することまでです。
まとめ——順番にすると、こうなります
- 今あるクロスを、中性洗剤とぬるま湯で押し洗いする(柔軟剤・漂白剤・乾燥機は使わない)
- 洗い上がりの手触りを見て、ごわつく・滑らないものは交換する
- 枚数を3枚にして、机・洗面所・鞄の三か所に定位置を作る
- 使ったら畳んで戻さず、洗濯待ちへ。週に一度まとめて洗う
- ケースの中の予備こそ、定期的に入れ替える
クロスを替えても拭き跡が残る、レンズのふちが白く曇ってきた、という段階になると、文章だけでは判断がつきにくくなります。傷なのかコートの劣化なのかは、光にかざして角度を変えながら見るのがいちばん確かで、その場で実物を見せてもらえると話が早い。メガネ・サングラスの売場では一級眼鏡作製技能士が常駐していますので、レンズの状態やかけ具合が気になったときは、他の買い物のついでにでも気軽に声をかけてください。手入れで済むのか、それ以上の話なのかの見当だけでも、その場でお伝えできます。