メガネとマスクの併用は、フレーム下端で決まる
マスクをつけるたびにメガネが押し上げられる。下を向くとずり落ちる。話しているうちにマスクの上端がレンズの下にもぐり込んで、かけ直す回数が増える。一日の終わりには、なんとなく疲れた気分になる——こうした煩わしさは、たいてい「メガネが緩いから」ではなく、マスクの上端とフレームの下端が同じ高さで重なっていることから起きています。この記事では、その重なりを減らすための手がかりを、鼻パッドの高さ・フレームの縦幅・レンズと頬の距離という3つの構造に分けて整理します。
煩わしさの正体は、「同じ高さ」で重なっていること
マスクは鼻の付け根から頬に向かって斜めに上がっていきます。一方、メガネのフレーム下端は目の下、頬骨の少し上あたりにあります。この二つが同じ高さの帯に入ると、呼吸や会話で動くマスクの上端が、そのままフレームを下から押し上げたり、引っぱったりします。メガネ側がどれだけしっかりかかっていても、下から力がかかり続ければずれます。
切り分けは簡単です。マスクを外した状態で、同じ動作(うなずく、話す、歩く)をしてみてください。 それでずれるなら、原因はかけ具合やフレームの幅の側にあります。マスクを外すと落ち着くなら、重なりの問題です。この記事で扱うのは後者のほうです。
なお、重なりを減らすと結果的にレンズの下から抜ける空気の通り方も変わりますが、ここでは位置関係の話に絞ります。
構造1:鼻パッドの高さ——メガネを何ミリ「上」に置けるか
フレーム下端を上げるいちばん直接的な方法は、メガネ全体をわずかに高い位置にかけることです。これを担うのが鼻パッドです。
クリングス(パッドを支える金属の足)が付いたメタルやチタンのフレームは、パッドの高さ・前後・角度に調整の余地があります。パッドの当たる位置を鼻の少し下寄りに取ると、フレームは相対的に上に乗り、下端が持ち上がってマスクの上端から離れます。数ミリの差ですが、重なるか重ならないかの境目にいる人には効きます。
ただし、上げすぎは見え方に直結します。 瞳の位置とレンズの中心がずれると、特に遠近両用や中近レンズでは、どの高さでどこが見えるかという配分が変わってしまいます。度が入っているメガネの鼻パッドを自分で曲げるのは、ここが理由で勧められません。
一体成型のセルフレーム(プラスチック系で、鼻の部分が本体と一続きのもの)は、高さが固定です。この場合は、別付けのパッドを足す、あるいは鼻の形に合う別のモデルを探す、という方向になります。鼻あてのカスタマイズで対応できる範囲もあるので、今の一本を使い続けたい人は相談してみる価値があります。
構造2:フレームの縦幅——下端の位置は「形」で1cm近く変わる
同じ高さにかけていても、フレームの形で下端の位置はかなり違います。レンズの縦幅が深い形(深めのボストンやウェリントン、大きめのラウンド)は、下端が頬の近くまで降りてきます。反対に、浅いスクエアやオーバル、下側にリムのないタイプは、下端が高い位置で止まります。
縦幅が40mm前後あるものと、30mm前後のものでは、下端の位置に1cm近い差が出ることもあります。マスクの上端が通る帯は、顔の上で意外と狭い。その帯から1cm離れるだけで、押し上げられる回数ははっきり減ります。
ここで先に確認しておきたいのが、レンズ側の制約です。遠近両用や中近レンズは、下側に近くを見るための領域が必要なので、縦幅を詰めすぎると本来の使い方ができません。縦幅で選べる余地が大きいのは、単焦点レンズや度なしの人です。遠近両用を使っている人は、「縦幅をどこまで浅くできるか」をレンズの種類とセットで見ることになります。この順番を逆にすると、気に入った形を選んだあとでレンズが入らない、という回り道になります。
構造3:レンズと頬の距離——真横から見て、隙間があるか
3つめは前後方向です。フレームには前傾角(レンズ面がやや下向きに傾く角度)があり、これが強いほど下端は頬に近づきます。頬は笑ったり話したりすると持ち上がる場所なので、ここが近いと、マスクの上端の生地が挟まってもたつきます。
確かめ方は、鏡で真横から見るか、人に横から写真を撮ってもらうこと。レンズの下端と頬のあいだに、指が一本入るくらいの隙間があるかを見ます。隙間がほとんどないなら、マスクの布は必ずそこに入り込みます。
ただし離せばいいというものでもありません。レンズと目の距離が変わると、見え方や周辺の感じ方も変わりますし、離れるほどメガネは不安定になります。前傾角やテンプルの開き具合は、見え方と安定の両方に関わる部分なので、数字で正解が決まるものではなく、実際にかけた状態を見ながら詰めていく領域です。
マスク側でできること、調整では追いつかないこと
メガネ側だけでなく、マスク側でも位置は動かせます。
- サイズを見直す:大きすぎるマスクは上端が高い位置まで来ます。顔の大きさに合うものに替えるだけで重なりが減ることがあります
- ノーズワイヤーを鼻筋に沿わせる:上端を低く、顔に沿わせて固定できれば、動く幅そのものが小さくなります
- 上端を一度内側に折る:布が二重になるぶん厚みは出ますが、高さを下げられます。厚みが気になる人には向きません
そのうえで、どうにもならない場合があることも正直に書いておきます。 鼻の高さや頬の張り方は人それぞれで、フレームの形が顔に対して合っていないときは、調整では位置関係が戻りません。その場合は選び直しのほうが早い、という判断になります。また、長時間の着用そのものによる不快さは、位置を変えても完全には消えません。
もうひとつ。見えにくさ、目の痛み、かすみといった眼の症状や病気は眼科医の領域です。メガネの位置や調整の話とは切り分けが必要で、お店でできるのは見え方の相談とメガネの調整まで、と線を引いています。気になる症状があるときは、先に眼科を受診してください。
決める順番と、実物で確かめたいこと
順番にすると、こうなります。
- マスクを外して同じ動作をし、原因が重なりかどうかを切り分ける
- 今のフレームで、鼻パッドを使って高さを上げられる余地があるかを見る
- レンズの種類(単焦点か、遠近両用・中近か)から、縦幅をどこまで浅くできるかを決める
- 真横から見て、レンズ下端と頬の隙間を確かめる
選び直す場合、試着のときに普段使っているマスクを持っていくと話が早いです。同じ素材、同じサイズのものを実際に着けた状態でかけてみると、上端とフレーム下端が重なるかどうかがその場で分かります。写真や数字だけでは判断しにくい部分なので、ここは実物で確かめる価値があります。
メガネの売場には一級眼鏡作製技能士が常駐していて、かけた状態を見ながら、鼻あての高さやフレームの形について一緒に考えることができます。今の一本の調整で足りるのか、形を変えたほうが早いのか——その見当をつけるだけでも、毎日のかけ直しの回数は変わってきます。