メガネが歪む原因は「外し方」。3つの癖を見直す
「この前調整してもらったばかりなのに、また片方だけ下がってきた」。売場でいちばん多く聞く相談のひとつです。調整が甘かったのでは、フレームが弱いのでは、と疑いたくなりますが、話を聞いていくと、原因が一日の中の数秒の動作にあることがかなりあります。この記事では、メガネを「外すとき」の3つの癖が、どのパーツにどんな負担をかけ、どう歪みにつながるのかを一つずつ追っていきます。
歪みは「かけている時間」ではなく、「外す瞬間」にたまる
メガネは一日中かけていても、顔の形に沿って静かに乗っているだけなので、それほど大きな力はかかりません。力がかかるのは、動かす瞬間です。
一日に何回メガネを外すか、数えたことはあるでしょうか。顔を洗う、風呂に入る、昼寝をする、パソコンから目を離して遠くを見る、食事中に湯気で曇る、洗濯物をたたむときに近くが見づらい。意識していないだけで、多い人は一日に十回以上着脱しています。年間にすれば数千回。その一回ずつに左右差のある力が加わっていれば、半年もすれば形として残ります。
ここで大事なのは、歪みは「強い力が一度」より、「弱い力が同じ方向に何千回」で起きるということです。だから本人には自覚がない。強く引っ張った覚えはないのに歪んでいる、というのはそういう理屈です。
そして、着脱のうち負担が大きいのは「かける」より「外す」ほうです。かけるときは両手で持って顔に近づける人が多いのに対し、外すときは手が空いていなかったり、急いでいたりで、片手になりやすい。ここから3つの癖を順に見ていきます。
癖1:片手で外す ―― 反対側のテンプルが毎回ねじられる
いちばん多く、いちばん効いてくるのがこれです。右手だけでメガネの右のつるをつかみ、斜め前へ引き抜くように外す。あるいは、右のレンズの横あたりを指でつまんで引き上げる。どちらも、やっている本人はごく自然な動作です。
このとき、左側のテンプルは耳にまだ引っかかったままです。つまり右を前に引く力が、左のテンプルを支点にした「ねじり」になって伝わります。負担が集中するのは次の場所です。
- 左の丁番(ちょうつがい):開く方向ではなく、斜めにこじられる。ネジがゆるむ、ガタが出る
- 左のテンプルの曲がり始め(耳にかかる部分):外へ広がる方向に少しずつ開く
- 左のレンズ枠と智(レンズ枠とテンプルのつなぎ目):金属フレームだとここが微妙に開いてくる
結果として何が起きるか。片手で外す側とは反対の側が、だんだん緩んで広がる。広がれば耳への引っかかりが弱くなり、その側が下がる。「片方だけ下がる」の原因として、まず疑ってほしいのがこれです。
自分がどちら側で外しているかは、意識すると三回で分かります。もっと確実なのは、机にメガネを置いて真横から見ること。テンプルが二本きれいに重なっていればほぼ左右差はなく、片方が外へ逃げていれば、その側が「支点にされていた側」である可能性が高いです。
直し方はひとつだけ。両手で、両方のテンプルを同時に持って、まっすぐ後ろへ抜く。 両手がふさがっているときは、一度どちらかの荷物を置く。これだけです。慣れるまでは不便ですが、二週間ほどで体が覚えます。片手外しをやめただけで「前より歪まなくなった」と言われることは、けっこうあります。
癖2:頭に乗せる ―― 広げ切った状態で固定される
メガネを外して、そのまま頭の上に乗せる。手がふさがらないので便利ですし、見た目にも慣れた動作です。ただ、フレームにとっては条件がかなり厳しい置き場所です。
理由は二つあります。ひとつは幅。頭の周囲は、こめかみの幅より明らかに大きい。顔にかけているときのテンプルの開き具合より、さらに外へ広げた状態で乗ることになります。しかも数秒ではなく、そのまま十分、三十分と乗せたままのことがある。広げた形でキープされる時間が長いのが、瞬間的な力より効いてきます。
もうひとつは支点の位置。頭に乗せると、テンプルの耳にかかる部分ではなく、その手前あたりが頭の丸みに当たります。普段とは違う場所に、普段とは違う向きの力がかかる。セル(プラスチック系)のフレームは熱や時間で形がなじむ性質があるので、これを繰り返すと、テンプルの開き具合そのものが変わってきます。
さらに付け加えると、頭に乗せたまま前かがみになって落とす、というのが傷と変形の大きな原因です。落とした先が床なら、レンズの縁に欠けが入ることもあります。
対処は「乗せない」が基本ですが、やめられない人も多いと思います。 その場合はせめて、乗せる時間を短くする。一時的に手を空けたいだけなら数十秒で下ろす。長く外すなら、頭ではなく胸ポケットか、置き場所へ。外す場所ごとに受け皿を決めておくと、頭に乗せる回数は自然に減ります。
癖3:テーブルにレンズを下にして置く ―― 歪みより先に傷が出る
外したメガネを、そのままテーブルにぽんと置く。このとき、多くの人が「レンズを下、テンプルを上」の向きにします。そのほうが安定して倒れにくいからで、感覚としては間違っていません。
ただ、この置き方には二つの問題があります。
ひとつ目はレンズの傷。 テーブルの上には、目に見えない砂ぼこりやパンくず、調味料の微粒子が必ずあります。そこへレンズの凸面を押し当て、少しでもずらせば、外周寄りに短い線傷が入ります。一回では分かりませんが、何百回と重なると、光の加減で白っぽく見えるようになります。レンズの傷は原則として元に戻せません。削って消す、ということはできない部分です。
二つ目は、置いたあとに加わる力。 レンズ下向きで置くと、重さはレンズの左右の縁二点で受けることになります。ここで上からうっかり物を置いたり、新聞を重ねたり、肘が乗ったりすると、力は枠を通ってテンプルへ抜けます。テンプルを上に跳ね上げた状態なので、丁番にも斜めの力がかかる。レンズ下向き置きは「安定している」のではなく、「レンズと丁番に賭けている」状態に近いです。
置き方の正解は、テンプルをたたんで、横向きに寝かせる。 つまり、片側のテンプルの外側を下にして、横たえる形です。これならレンズは宙に浮き、テーブル面に触れません。もうひとつ、折りたたんだテンプルを下にして、レンズを上向きにして置くのも悪くありません。いずれにせよレンズ面をテーブルに付けない、これだけ守れば傷の系統はひとつ減ります。
3つを変えると、何がどれくらい変わるのか
正直に書くと、動作を変えても「絶対に歪まなくなる」ことはありません。かけている間の汗や皮脂、気温、寝るときの扱い、カバンの中での圧迫など、原因はほかにもあります。ですから「これで一生もちます」という言い方はできません。
そのうえで、現実的な見通しとしてはこうなります。
- 片手外しをやめる ―― 左右差の進み方が目に見えて遅くなる。「片方だけ下がる」の再発間隔が延びる人が多い
- 頭に乗せる回数を減らす ―― テンプル全体の開きが進みにくくなる。特にセル素材で効く
- レンズを下にして置かない ―― 歪みより、レンズの傷のたまり方が変わる。これは買い替えの時期に直結する
どれも地味で、やっている最中は効果が実感できません。効くのは半年後、一年後です。逆に言えば、今まで通りの外し方を続ける限り、調整しても同じ歪み方に戻る。調整は「現時点のずれを直す」ことはできても、明日からの癖までは直せないからです。
なお、ここまでの話は左右差や緩みについてのものです。「見えにくい」「かけていると気分が悪い」といった目そのものの症状は、メガネの歪みとは別の話として、まず眼科で診てもらってください。眼の不調や病気の診断は医師の領域で、メガネ店でできるのは見え方の相談と、メガネそのものの調整・提案までです。ここは線を引いておきます。
自分で曲げ戻す前に、確かめておきたいこと
歪みに気づくと、つい指で戻したくなります。気持ちは分かるのですが、その前に二つだけ。
ひとつ、素材によって「戻らない曲がり方」がある。 細い金属フレームは、同じ場所を何度も曲げ戻すと金属疲労で折れます。セルは常温で無理に曲げると白く筋が入ったり、割れたりします。熱を入れてから動かすべき素材を、冷えたまま力ずくで動かすのがいちばん危ない。
ふたつ、どこが歪んでいるかを先に見分ける。 平らな机に置いて真横と真上から見る。真上から見て左右のレンズ枠の前後がずれていれば智や丁番、真横から見てテンプルの高さが違えば耳にかかる部分、という具合に、原因の場所が違えば触るべき場所も違います。見当をつけずに手近なところを曲げると、別の歪みを足すことになります。
そして、動作の癖が原因だった場合は、調整と同時に「外し方」を変えないと、同じ場所がまた歪みます。相談に行くときは、「右手で片手外ししている」「よく頭に乗せる」といった実際の扱い方を伝えてもらえると、原因の見当が早くつきますし、その人の癖を前提にした調整のしかたもあります。癖そのものを責めるつもりはなくて、直せない癖なら、それを織り込んで調整するほうが現実的です。
調整は、どうしても実物を見ないと判断できない部分です。HAUSのメガネ売場にも一級眼鏡作製技能士がいますので、今かけているメガネを持ってきてもらえれば、どこが動いているのか、調整で戻る範囲なのかを一緒に確かめられます。歪みの直し方そのものより、明日からの数秒の動作のほうが、結局は持ちを決めます。まずは片手外しをやめるところから試してみてください。